Reach For Tomorrow

日々の一部始終

「羽海野チカの世界展 〜ハチミツとライオンと〜」に行ってきた

香港から帰ってきて、すぐに行った「羽海野チカの世界展 〜ハチミツとライオンと〜」がとってもよかった!西武池袋本店デビュー!

f:id:m_tenenbaum:20160816145714j:image

「ハチミツとクローバー」と「3月のライオン」の原画がたくさんあって、それを見るだけでも幸せな気持ちになったんだけど、個人的なハイライトは、途中に展示されていたネームの作り方の過程だった。

 

羽海野チカのネームの作り方に関しては、木皿泉「木皿食堂」での対談で本人が話していて以来、気になっていた。

木皿食堂 (双葉文庫)

木皿食堂 (双葉文庫)

 

 

羽海野:ブラッシュアップを何回も自分でやるんですよ。一稿二稿三稿って。で、そこで残す台詞と捨てる台詞を貼ったりはがしたりして、前に詰めるか、間に足すか?というのを何回もやっているときに、セロハンテープをケチってたんです(笑)。

 

自分は漫画の知識もないから、この部分を読んだときにいまひとつ情景が浮かんでこなかったのだけど、今回の展示会では、本当に前の原稿の紙を切って、セロハンテープで次の原稿に貼っていた様子がわかった。あまりにアナログなやり方で衝撃だった。これは本当に必見。

本人曰くこの過程は

ザラザラをすべすべにしていく

とのこと

 

そして、その衝撃のままグッズを購入 

f:id:m_tenenbaum:20160816145705j:image

イラストセレクションは、ページを外して飾ることができると聞いて、「まぁなんて優れもの! 」って感じで即購入。しかも装丁が信頼の名久井直子さん!

 

後の思い出としては、グッズが販売されているエリアの近くに、羽海野チカ宛のメッセージノートが置いてあって、そこでメッセージを書いていた人が、もちろん内容は読み取れないけど、ノート1ページ分くらいの長文を書いていた。そのメッセージを書いている表情がなんともいえず良くて、「あぁ、本当にこの人も羽海野チカに励まされてきたんだろうな」って様子が伝わってきてグッときた。 

 

自分も浪人時代に3月のライオンを何度も読んで、一生懸命頑張る気持ちになっていたことをぼんやり思い出した。

 

 

〜ここから後日談〜

 

そんなこんなで、思っていたよりは混んでいなかったのでじっくり見れてよかった〜と思いながら、帰り道に羽海野チカのお話のどんな所が好きなのか考えてみたけど、やっぱり、必死になって物語を誠実に描く所なんだろうなという結論になった。

twitterでのツイートを見てもとても繊細な人なんだろうなというのがビンビン伝わってくるし、普段喋っていることや考えていることと、本人が描く作品にまったくブレがなさそうな所が好き。

 

読み終わった人が元気をなくすようなものだけはイヤなので。みんな読み終わって「やっほーい」って言ってほしくて、「生きていても何もいいことがないよ」とだけは思ってほしくないんです。

これも「木皿食堂」で言ってた発言だけど、この願いを叶える難しさを痛感しながら、それでもなお叶えようと強く思っている方なんだと思う。

 

あと、この発言も好き

私、大事なことを何回も言ってくれるっていいなと思っていて。実を言うと、現実でも三回目ぐらいで「ああっ!」と思うので。

ちょっと前に読んだこのエントリにも通じる

hase0831.hatenablog.jp

 

もう10代でもないのだから、いい加減、自分の周りにいてくれる人たちの素敵だなと思う部分をたくさん見つけて、本人に伝えていきたいな思う今日この頃。

 

 

 

 

加藤千恵「ラジオラジオラジオ!」

香港滞在中は、大学が市街地から離れたところにあったこともあり、夜はだいぶ自由な時間があったので7月はあまり読めなかった本をたくさん読んだ。とはいえ、Kindleの充電器を持っていくのを忘れてしまったので、Kindleの電池が切れた滞在終盤はあまり読み進められなかったけど。その中でも一番ワクワクした本の感想を残しておく。

 

 

加藤千恵 「ラジオラジオラジオ!」

ラジオラジオラジオ!

ラジオラジオラジオ!

 

 

朝井リョウ&加藤千恵のANN0のパトロン(リスナーの呼称)だったこともあって、番組のコーナー名がタイトルになっているこの作品には、思い入れがあって、先に文藝で読んでいたけど、やっぱり購入した。

タイトルの元ネタはフリッパーズ・ギターのこの曲


CAMERA! CAMERA! CAMERA! - カメラ!カメラ!カメラ! -(M.V.) / FLIPPER'S GUITAR

 

簡単なあらすじを書くと、

地方都市に住む高校生の女の子が、友達とラジオパーソナリティーとして週一回番組を持つことになる。大学生になったら東京に行って、その後はメディア関係の仕事に就くことを夢見る主人公は、やる気満々で番組に取り組むが、大学受験が近づくにつれて、次第に友達とのラジオに対する熱量の差が広がっていってしまう...

という話

 

カトチエさん自身、高校生の時に旭川のコミュニティFM「FMリベール」でラジオ番組(そのタイトルも「ラジオ!ラジオ!ラジオ!」)を持っていたこともあるから、当時を振り返るような自伝的な内容になっているかと思えば、そういう訳ではなく。

本人は、津村記久子の「ミュージック・ブレス・ユー!!」みたいな青春小説を書きたかったとラジオで話していた。

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

 

 

どちらの作品も、カルチャー好きで、自分は他の人とはちょっと違うと思っている主人公が、つまらない日常にうんざりして、ここではないどこかへの憧れを強めているけど、あるきっかけで自分の視野の狭さや自惚れを痛感し、そこから一歩を踏み出そうとする話。

 

こういう話は大体好き。柚木麻子の「本屋さんのダイアナ」とかも近いテイストの話だと思う。祝文庫化!

 

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

 

 

ただ、この手の話で描かれる主人公の行動や心情っていうのは、自分にも思い当たる節がたくさんあって、主人公と同じように恥ずかしい気持ちになれるかどうかが重要な気がする。

 

話は変わるが、香港に行く前日、「シング・ストリート」を閉館が決まっているシネクイントで見て、悪くはないけど、心の底から面白いとも思えなかったんだけど、その理由は、もしかしたら主人公が本当の意味での挫折みたいなものを経験しないまま、素敵な仲間と恋人とお兄ちゃんに囲まれて、成長していく姿に納得ができなかったことが大きいのかな、と思った。

もっと惨めで、しょうもない行動や言動を取ったりするでしょ、って気持ちになっちゃった。

映画を観た直後はどこかモヤモヤしてるだけで、うまく言語化できなかったけど、この本を読んだりして考えるうちに、少し言語化できるようになった。

 

 

 

就活の振り返り その2

これの続きで就活に関して。

m-tenenbaum.hatenablog.com

 

今回は就活する上で気にしてた点と、今の会社を選んだ理由について

 

気にしていた2つのこと

(1) あまり精神的に無理をしない

(2) 好きな会社と好きな働き方は一致しない

 

(1)に関して

自分が出来る限りで愛想よく振舞ったり、時間や礼儀は守るということはもちろんちゃんと意識したけど、リクルーターに呼ばれるために何回も同じ会社の説明会に参加するとか、企業偏差値的なものを意識するとか、必要以上に自分を良く見せようと話を盛りまくるとかはあんまりしなかった気がする。なんかそこは個人的に曲げたくなかった。

 

前も書いたけど、そんなに「どうしてもここの会社・業界じゃなきゃ嫌だ!」的なこだわりはなかったから、なるべく素に近い自分で受けた方が、落ちたら落ちたで、まぁ縁がなかったと割り切れるかなと思っていた。結構志望度高い企業の面接で、緊張しすぎて、肩に力入りすぎたら落ちたし。

 

(2)に関して

これは就活してから強く思うようになったけど、一ユーザーとして好感を持てる会社(好きなプロダクトを出していたりとかするような会社)と社員として活躍できる会社は、結構違うと思う。

 

例えば、好きな化粧品のメーカーがあったとして、そこに入社できたとしても、東京から離れて友達もいない地方に配属されて、数年間営業職として、マーケが作った製品を売るためにスーパーの方々と交渉したりするといった仕事で求められているものってどんなことだろうか?、そこで自分が活躍できるとしたら、どんな風に活躍できるのだろうかをしっかり自問自答した方がよい。

自分は、ユーザーとしてとても好きな会社に行くことができたが、この点の不安は残っている。

 

内定先を選んだ理由

複数内定をもらった上で今の会社を選んだ理由は、

・もともとユーザーだったし、ファンだった

・会社として、自由と責任の両立を重視する風潮があって、それが自分の中高の雰囲気と似てた

・興味のある業界だった上に、その後のキャリアパスも広がりがあると思えた。平均の勤務年数もどちらかと言えば短く、最初からガンガン一生懸命働くことを求められそうだった。

・勤務地が東京だった

・社員の方々は目線が高く自信も持ってそうで、だか、といって浮き足立つこともなく地に足ついてる感じもして、そのバランスがよかった。ちゃんとイキイキ働いてるように見えた。会社に依存してる感じもなかった。

 

まぁ色々あげられるけど、素直にここで働きたいなーって思った。

 

 

 今後の課題

・とにかく卒業する

・英語を磨く(最低でも入社前にTOEFL90は獲得)

・目標を設定して、それを達成しきる習慣をつける

・主体性を持って、卒業まで取り組める物事を見つける

・会社の力と自分の実力を混合しない

・社会人になったら、なかなか頻繁には会えなくなりそうな友達と親睦を深める

 

  

漠然としてるけど、こんな感じでしょうか。

近日中に細かく要素を分解する。

 

 

 

山内マリコ 「買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて」

今、香港の大学に2週間の短期留学(奨学金的なものを貰えたので破格の値段)をしているんですが、夜は結構暇なので久々にブログ更新。 

買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて (文春文庫)

買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて (文春文庫)

 

この本は、山内マリコさんが「週刊文春」にて、2014年春から一年ちょっとの間、連載をしていたエッセイをまとめたもの。

エッセイの内容は、好きなものへの思い、30代を迎えたこと&結婚を経て変化した暮らし方などを、買い物を通して振り返る内容になっている。

反消費でも消費礼賛でもなく、そこそこまじめな消費者でありたいと思っています

と書いてあるけど、まさにそんな感じ。

 

個人的には山内さんが昔更新していた名画座巡りのブログ

theworldofmaricofff.tumblr.com

がすごい好きで、今回のエッセイ集はこのブログを思い出した。

 

このブログを読むまで1980年代以前の日本映画は、シネフィルっぽい人(ex.蓮實重彦)がしかめっ面で語っているような印象だったんだけど、山内さんがハイテンションな文体で若尾文子のことを「あやや〜」とか呼んで、楽しそうに感想を書いているのを見て、「あっ、こういうテンションで楽しんで見ていいんだ!!」って思って、そこから増村保造、成瀬巳喜男、木下恵介といった名匠の作品を見る大事なきっかけになった。

そこから、自分も「佐田啓二と中井貴一の親子、そっくりじゃん!」とか、「若い時の加山雄三かっけ〜」みたいな、しょーもない感想ばっかり抱くようになりました。

 

最高殊勲夫人 [DVD]

最高殊勲夫人 [DVD]

 

 

木下惠介生誕100年 「お嬢さん乾杯」 [DVD]

木下惠介生誕100年 「お嬢さん乾杯」 [DVD]

 

 

乱れる [DVD]

乱れる [DVD]

 

このあたりはそんな思い出が詰まっている作品 

 

話をエッセイ集に戻すと、個人的に好きなエピソードは「プラダの財布」と「中邑真輔のキーホルダー」。

あとは、文中で山崎まどかさんのこの本の話も出てくるけど、読んだ印象もこの本に近いので、この本が好きな人にはオススメです(逆も然り)

「自分」整理術 好きなものを100に絞ってみる

「自分」整理術 好きなものを100に絞ってみる

 

 

この本を読んだ次の日(今日)、謎の少林寺拳法体験の後によったショッピングモールで、「日本で買うより安いし、店員さん英語で優しく接客してくれたし、来年から私服メインの会社で働くし、昨日読んだ本面白かったし」とありとあらゆる言い訳を自分に言い聞かせて、ブルックス・ブラザーズでシャツを買ってしまいましたとさ。

 

 

就活の振り返り

ここでは報告していなかったですけど、少し前に就活終わりました〜。

一段落したので、働き始めた後に振り返ることができるように、就活で考えてきたことを文字に残しておきたいと思う。友達に読まれると恥ずかしいけど。

 

1. ざっくり考えていたこと

 (1) 早めに始めて、早めに終わらせよう

僕は1浪1留しているので、周囲の友達には既に働いている人がちょくちょくいた。彼らから話を聞いたりしたところ、自分はだいたい第一印象が人より悪いタイプの人間なので、集団面接とか苦手そうだし、早めに始めて経験を積んでおくのが良さそうだなと思った。

だから、夏からちょくちょくインターンに応募したりしていた。冬のインターンはもっと多く応募した。本選考は10企業ほどしか出していないが、以前のESが使いまわせたので楽だった。

この方針は、我ながらよかったと思う。実際、3月の就活解禁直後に志望度高い企業から内定をいただけたので、そこからは興味が本当にある企業しか受けなかったので、かなりストレスフリーな就活になった。

2月頃、その企業の3次面接前にナーバスになった時期が1週間ほどあり、それが就活中で一番辛かった時期だけど、他の人よりわりと短い期間だと思う。

 

(2) イキイキと働きたい

大学時代に、数は決して多くないが、社会人の知り合いの方ができていたので、その人たちの働いている様子を見ていて、有名な会社に入ることが必ずしも幸せに繋がったりしないのだなーってことをなんとなく肌感覚で感じていた。きちんと言い換えると、「ある環境が幸せを保証してくれるわけではない」っていうこと。

でも、同時に「社会人になるのもそんなに悪くなさそうだぞ!」みたいなことも感じていた。だからよくある「働きたくな〜い」みたいな愚痴は口に出さなかった気がする。(働き始めたら言い出す気はするけど)

 

それらを踏まえて、充実感をもって日々過ごすために何が必要なのかを考えてみると、自分の人生で、自分がコントロールできる部分を少しでも増やしていくことが大事なのかなーという結論に至った。もちろん完全にコントロールすることは不可能だけど、会社に長期間コントロールされるとあまりハッピーにならないのかなーって感じた。

あとは、ここにも書いたけど「働きマン」の影響がデカイ。いい仕事したなーって思って死にたいって思ってた。「働きマン」は必読

m-tenenbaum.hatenablog.com

 

 2. やりたいことが明確にはないけど、どうしよう?

これは就活を始める前から気にしていたことだった。明確にこれといってやりたいことがなかった。ってかあったらやってるわ!って思ってた。かといって就活を止めるのもアレだし、色々な経験は積んでいたので、以下の2点を考えた。

 

⑴自分を評価してもらいやすい企業を受けよう

⑵やりたいこと見つかった時に動けるように実力が若くからつく&ある程度会社のネームバリューがある企業を受けよう

 

 

⑴に関しては、一歩踏み込んで2つのことを考えた。

1つ目は、自分の経験の中から、楽しいと思った要素や、他の人より得意な要素を抽出し、そこから、その要素がどんな仕事なら最大限活きるか考える。

2つ目は、内定をもらえる可能性があるか探る。具体的には、募集人数が極端に少ない企業や、知人で働いている人が思い浮かばない企業は極力避けた。

「〇〇が内定もらえたのなら、自分にも全くチャンスがないわけではなさそう。」みたいな感覚と、そこから生まれる自信は大事な気がする。

 

⑵に関しても、一歩踏み込んで2つのことを考えた。

1つ目は若い時から競争にさらされる環境があるかどうか。(そういう環境じゃないと、人一倍だらける傾向にあることを強く感じてた)

2つ目は業界として成長しているかどうか。(業界として停滞していると、任される仕事もわりとルーティンワークになりがちだし、しかも自分の努力の成果が結果に反映されにくいから、やってて手応えが少ない、勝ちグセが身につきにくい、という話を聞いたことによる)

ちなみに、ネームバリューをある程度大事にした理由は、やっぱりリスクを取りきれなかったというのもあるし、1社目の社格は、次の選択肢を増やすことにも減らすことにもつながるという話を受けたというのもある。

 

他にも、文字に残しておきたいことがあるのだけど、だいぶ長くなったので次に持ち越す。

 

その2はこちら

m-tenenbaum.hatenablog.com

 

 

「出版文化論」佐々木敦×九龍ジョーの感想

今日の4限、映画論の授業中にたまたまtwitterを見ていたら佐々木敦氏が、5限の出版文化論の授業のゲストスピーカーにライターで編集者でもある九龍ジョーさんが来ることを告知していた。たまたま5限空いていたし、他学部の授業であるが迷わずモグることを決意。

九龍さんは、音楽だけでなく、様々なカルチャーの面白い(面白くなりそうな)モノや人を察知する感覚が鋭くて、いつも彼のツイートや記事、以下のような著作を通じて、自分が知らない世界を教えてもらっている。 

メモリースティック  ポップカルチャーと社会をつなぐやり方

メモリースティック ポップカルチャーと社会をつなぐやり方

 
遊びつかれた朝に 10年代インディ・ミュージックをめぐる対話 (ele-king books)

遊びつかれた朝に 10年代インディ・ミュージックをめぐる対話 (ele-king books)

 

今年、初めてプロレスを見に行ったのも、九龍さんの本がきっかけの一つである。 

m-tenenbaum.hatenablog.com

 

今回の授業では、九龍さんのそれまでのキャリアを振り返ることがテーマになっていた。大教室で行われている授業だったので、自分のように九龍さんのことを知っている人がいれば、一方でおそらく単位目当てでこの授業を履修しているんだろうな〜っていう人もいて、そういう人にもわかりやすいように(cero、坂口恭平、大森靖子、又吉など、九龍さんが関わっているクリエイターの固有名詞は出てくるものの、彼らについて特に掘り下げたりはしていなかった気がする)九龍さんのキャリアが振り返られていった。

余談としては、ギリギリで教室に着いたから前の方の席に座っていたのだけど、それより遅れて前の席に座った人が九龍さんの話によく笑うなーと思っていたら、カルチャーブロスの編集長だったことが最後に判明してびっくりした。

 

1時間半があっという間の授業だったけど、その中でも特に印象に残った点を3点にまとめる。授業中のメモをもとに書くから、一部ニュアンスが違ったりするかもしれないけど。

  1. とにかく本を読んで、本の中に師匠を見つけろ
  2. 至る所が現場になりうる
  3. 好きなメディア(雑誌や出版社)ではなく、苦手なメディアに関わる方が仕事が来るよ  

 1. とにかく本を読んで、本の中に師匠を見つけろ

九龍さんは、「現場」にいるイメージが強かったので、これが一番意外だった。クリエイターの人が考えていることを整理したり、アドバイスをするためには、知識が重要だから、時間のある学生のうちに様々な本(哲学など)を読んで、自分の本の中の師匠のような存在を見つけようと言っていた。授業中に言っていた本にはこんなのがあった。

 

ガール・ジン 「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア

ガール・ジン 「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア

 

  

ヴァレンシア・ストリート

ヴァレンシア・ストリート

 

このあたりの本の話をしているときの熱量と、話の展開の速さはさすがプロってすごい感じた。

ちなみに、九龍さん自身が様々なジャンルに詳しくなった要因(気になっていた)は、男子校時代にプロレス、デスメタル、お笑いに詳しくなって、そこからどんどん掘り下げていくうちに、立川談志につながったりした経験や、大学生時代にも障害者支援の団体に関わったこと(このエピソードが秘密にしたくなるくらい面白かった)からドキュメンタリー映画を知ったりした経験が大きいらしい。

今は、面白いと思う若者と一緒に遊んだりしているうちに、その若者のつながりで色々な人やモノを知ったりするらしい。そして、その遊んでいる若者の一部が有名になったりするらしい。

「面白いと思うことを話してくれれば、その人のモノの見方とかわかる」みたいなことを言ってたけどそれは本当にそうだと思う。

 

2.至る所が現場になりうる

自分自身がよく現場派のライターだと評されることが多いけど、みたいな所から派生して、このことを言っていた。例えば、確かにキンプリの応援上映、テニミュなどの現場に行ってみると、ライブハウスと映画館の垣根がなくなりつつあるのではといった仮説は生まれる。でも、現場というのは、別に必ずしもそういった場だけのことを指すわけではなくて、何かが起きていればそれは現場なんだから、今でいったらyoutubeを見るパソコンの前だって現場になりうるよ、とのこと。この話を聞いたときは、tofubeatsやマルチネを連想した。

ちなみに、今はそういったニュージャーナリズム型のライターは少ないから、そういった現場で感じたことを記事にできるライターを目指すのはアリとのこと。確かに、キンプリのことを映画批評の文脈だけで語っても、片手落ち感はする。

 

3. 自分らしい企画が通るのは好きなメディア(雑誌や出版社)ではなくて、むしろ反対

これは九龍さんの自論らしく、何回か言っていた。九龍さん自身、太田出版に在籍していた時、クイックジャパンは嫌いで、 嫌いだったからこそクイックジャパンに仕事で関わるようになったときも、自分が考える企画は他の編集者とテイストが異なっていたので、それが自分にしかできない仕事としてどんどん認められていくようになったとのこと。今勤めている出版社でも、大森靖子や長渕剛の本を出すことができているのはそのスタンスを変えていないかららしい。

 

他にもたくさん面白い話があって、もぐって本当によかった!

2016年6月に読んだ本

6月に読んだ本をまとめておく。今月は、タマフルの海外文学特集の影響と、時間に余裕もあったことで海外の作品をたくさん読んだ。タマフルの特集のことはここに書いたのでよかったら。

m-tenenbaum.hatenablog.com

 

1.ダニエル・アラルコン 「夜、僕らは輪になって歩く」

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

 

内戦期に政府に反抗したことで伝説となった劇団が、内戦の終結後に各地を回る公演旅行に再び出向くことで始まる物語。

もう過去に何か取り返しのつかない重大なことが起きてしまったことが匂わされるが、それが何かよくわからないし、なんなら語り手が何者かすらもよくわからないというスタイルが独特だけど、初めからスラスラ世界観に入っていけた。語り手の正体が明らかになる瞬間や、とうとう物語の主人公に対面した時の、主人公の発する一言の重みが強烈だった。

book.asahi.com

 

2.呉明益 「歩道橋の魔術師」

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

 

翻訳大賞でも取り上げられていた台湾の小説家による作品。かつて台北に実在したという「中華商場」で幼年期を過ごした主人公たちが当時そこで起きた不思議な出来事を回想する話。「村上春樹が好き」っていう設定の登場人物がいたって普通に出てきて、もうそういうスケールの作家なんだな〜と改めて思う。

魔術師は二つの目で違う方向を見ながら言った。

「それは私にもわからないな。小僧、いいか。世界にはずっと誰にも知られないままのことだってあるんだ。人の目が見たものが絶対とは限らない。」

「どうして?」と僕は訊いた。

魔術師は少し考えてから、しゃがれた声で答えた。

「ときに、死ぬまで覚えていることは、目で見たことじゃないからだよ。」

 

3.リュミドラ・ウリツカヤ 「陽気なお葬式」

陽気なお葬式 (新潮クレスト・ブックス)

陽気なお葬式 (新潮クレスト・ブックス)

 

1991年の夏のニューヨークで、ソ連から亡命した主人公の病床に、過去に主人公と縁があった人たちが続々集まり、主人公との思い出を回想する話。

自分が愛した人が亡くなることと、母国がなくなりそうになることが同時期に怒っている模様を、重くなりすぎず、なんなら祝祭感溢れる感じに描くってすごい巧みだな〜って思った。

訳者のあとがきより

「解決策を示さないのか」あるインタビューでそう言われたとき、ウリツカヤは答えた。

問題を語ること、考えること、共有すること、それは既に、ひとつの行為なのだ。際限のない無理解と暴力に拮抗するひとつの「行為」なのだと。

 

4.前田司郎 「道徳の時間/園児の血 」

道徳の時間/園児の血

道徳の時間/園児の血

 

三島由紀夫賞(文学)、岸田國士賞(演劇)、向田邦子賞(テレビドラマ)といった幅広いジャンルの賞を総なめにしている前田司郎の最新作。彼が率いている五反田団に関しては、去年の冬に怪談を聞きに行っただけのまだまだビギナーだが、彼が脚本を担当した「横道世之介」はオールタイムベスト級に好きな映画。監督の沖田修一と前田司郎が中高の同級生なのは最近知った。

natalie.mu

表題作の「道徳の時間」は、突如浣腸が流行ってしまったクラスでの先生と生徒の攻防を描いた作品。

浣腸が流行ったのは四年生の一学期が最初だった。

浣腸といっても、直腸に薬液を注入するわけではない。両手の平を合わせ、二本の人差し指を突き立てる。子供によっては中指を立てる者もあるが少数派である。標的の後ろから近づき、「かんちょー」と叫びながら、その二本の指を相手の肛門のあたりに突き刺す行為のことを言う。

「かんちょー」と発声するとき「かん」にアクセントを置く一群と、「ちょー」にアクセントを置く一群があり、「かん」にアクセントを置くほうが大多数であり、時間が経つと全員が「かん」にアクセントを置くようになった

最初の一行で十分伝わるのに、この細部へのこだわりが好き。

 

 5.ムシェ 小さな英雄の物語

ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス)

ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス)

 

翻訳大賞受賞作。内戦下のスペインで、バスク地方に住む子供たちは戦火を逃れて、ヨーロッパ各地に疎開したという実話から生まれた物語。アウシュビッツ以外の強制収容所の話だったり、今まで決して大々的には語られてこなかった終戦間近のリューベックで起きた悲劇なども勉強になるが、やっぱりタイトルに書かれている「小さな英雄」の話として読むと感動する。

book.asahi.com

 

6.エドガル・ケレット 「あの素晴らしき七年」

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

 

イスラエルで活躍する作家の短いエッセイ集なんだけど、どうしたってイスラエルで暮らすしんどさが垣間見えちゃう、でも、そこをユーモアで乗り切ろうとする姿勢の素晴らしさが味わえる。確かにヴォネガットっぽいって言われるのもわかる気がする。両親の祖国であるポーランドに行った際のエピソードが特に好きで、ジャムサンドを食べたくなる。

 

父さんが何年も前に話してくれたベットタイム・ストーリーを思い起こしながら、魅力的な筋があるだけじゃなく、ぼくになにかを教えようとしているのだと気付いた。

どんなに見込みの低そうな場所でもなにかいいものを見つけんとする、ほとんど狂おしいまでの人間の渇望についての何か。

現実を美化してしまうのではなく、醜さにもっとよい光を当てて、その傷だらけの顔のイボやしわのひとつひとつに至るまで愛情や思いやりを抱かせるような、そういう角度を探すのをあきらめない、ということについての何か。

 

book.asahi.com