Reach For Tomorrow

日々の一部始終

加藤千恵「ラジオラジオラジオ!」

香港滞在中は、大学が市街地から離れたところにあったこともあり、夜はだいぶ自由な時間があったので7月はあまり読めなかった本をたくさん読んだ。とはいえ、Kindleの充電器を持っていくのを忘れてしまったので、Kindleの電池が切れた滞在終盤はあまり読み進められなかったけど。その中でも一番ワクワクした本の感想を残しておく。

 

 

加藤千恵 「ラジオラジオラジオ!」

ラジオラジオラジオ!

ラジオラジオラジオ!

 

 

朝井リョウ&加藤千恵のANN0のパトロン(リスナーの呼称)だったこともあって、番組のコーナー名がタイトルになっているこの作品には、思い入れがあって、先に文藝で読んでいたけど、やっぱり購入した。

タイトルの元ネタはフリッパーズ・ギターのこの曲


CAMERA! CAMERA! CAMERA! - カメラ!カメラ!カメラ! -(M.V.) / FLIPPER'S GUITAR

 

簡単なあらすじを書くと、

地方都市に住む高校生の女の子が、友達とラジオパーソナリティーとして週一回番組を持つことになる。大学生になったら東京に行って、その後はメディア関係の仕事に就くことを夢見る主人公は、やる気満々で番組に取り組むが、大学受験が近づくにつれて、次第に友達とのラジオに対する熱量の差が広がっていってしまう...

という話

 

カトチエさん自身、高校生の時に旭川のコミュニティFM「FMリベール」でラジオ番組(そのタイトルも「ラジオ!ラジオ!ラジオ!」)を持っていたこともあるから、当時を振り返るような自伝的な内容になっているかと思えば、そういう訳ではなく。

本人は、津村記久子の「ミュージック・ブレス・ユー!!」みたいな青春小説を書きたかったとラジオで話していた。

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

 

 

どちらの作品も、カルチャー好きで、自分は他の人とはちょっと違うと思っている主人公が、つまらない日常にうんざりして、ここではないどこかへの憧れを強めているけど、あるきっかけで自分の視野の狭さや自惚れを痛感し、そこから一歩を踏み出そうとする話。

 

こういう話は大体好き。柚木麻子の「本屋さんのダイアナ」とかも近いテイストの話だと思う。祝文庫化!

 

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

 

 

ただ、この手の話で描かれる主人公の行動や心情っていうのは、自分にも思い当たる節がたくさんあって、主人公と同じように恥ずかしい気持ちになれるかどうかが重要な気がする。

 

話は変わるが、香港に行く前日、「シング・ストリート」を閉館が決まっているシネクイントで見て、悪くはないけど、心の底から面白いとも思えなかったんだけど、その理由は、もしかしたら主人公が本当の意味での挫折みたいなものを経験しないまま、素敵な仲間と恋人とお兄ちゃんに囲まれて、成長していく姿に納得ができなかったことが大きいのかな、と思った。

もっと惨めで、しょうもない行動や言動を取ったりするでしょ、って気持ちになっちゃった。

映画を観た直後はどこかモヤモヤしてるだけで、うまく言語化できなかったけど、この本を読んだりして考えるうちに、少し言語化できるようになった。

 

 

 

「羽海野チカの世界展 〜ハチミツとライオンと〜」に行ってきた

香港から帰ってきて、すぐに行った「羽海野チカの世界展 〜ハチミツとライオンと〜」がとってもよかった!西武池袋本店デビュー!

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「ハチミツとクローバー」と「3月のライオン」の原画がたくさんあって、それを見るだけでも幸せな気持ちになったんだけど、個人的なハイライトは、途中に展示されていたネームの作り方の過程だった。

 

羽海野チカのネームの作り方に関しては、木皿泉「木皿食堂」での対談で本人が話していて以来、気になっていた。

木皿食堂 (双葉文庫)

木皿食堂 (双葉文庫)

 

 

羽海野:ブラッシュアップを何回も自分でやるんですよ。一稿二稿三稿って。で、そこで残す台詞と捨てる台詞を貼ったりはがしたりして、前に詰めるか、間に足すか?というのを何回もやっているときに、セロハンテープをケチってたんです(笑)。

 

自分は漫画の知識もないから、この部分を読んだときにいまひとつ情景が浮かんでこなかったのだけど、今回の展示会では、本当に前の原稿の紙を切って、セロハンテープで次の原稿に貼っていた様子がわかった。あまりにアナログなやり方で衝撃だった。これは本当に必見。

本人曰くこの過程は

ザラザラをすべすべにしていく

とのこと

 

そして、その衝撃のままグッズを購入 

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イラストセレクションは、ページを外して飾ることができると聞いて、「まぁなんて優れもの! 」って感じで即購入。しかも装丁が信頼の名久井直子さん!

 

後の思い出としては、グッズが販売されているエリアの近くに、羽海野チカ宛のメッセージノートが置いてあって、そこでメッセージを書いていた人が、もちろん内容は読み取れないけど、ノート1ページ分くらいの長文を書いていた。そのメッセージを書いている表情がなんともいえず良くて、「あぁ、本当にこの人も羽海野チカに励まされてきたんだろうな」って様子が伝わってきてグッときた。 

 

自分も浪人時代に3月のライオンを何度も読んで、一生懸命頑張る気持ちになっていたことをぼんやり思い出した。

 

 

〜ここから後日談〜

 

そんなこんなで、思っていたよりは混んでいなかったのでじっくり見れてよかった〜と思いながら、帰り道に羽海野チカのお話のどんな所が好きなのか考えてみたけど、やっぱり、必死になって物語を誠実に描く所なんだろうなという結論になった。

twitterでのツイートを見てもとても繊細な人なんだろうなというのがビンビン伝わってくるし、普段喋っていることや考えていることと、本人が描く作品にまったくブレがなさそうな所が好き。

 

読み終わった人が元気をなくすようなものだけはイヤなので。みんな読み終わって「やっほーい」って言ってほしくて、「生きていても何もいいことがないよ」とだけは思ってほしくないんです。

これも「木皿食堂」で言ってた発言だけど、この願いを叶える難しさを痛感しながら、それでもなお叶えようと強く思っている方なんだと思う。

 

あと、この発言も好き

私、大事なことを何回も言ってくれるっていいなと思っていて。実を言うと、現実でも三回目ぐらいで「ああっ!」と思うので。

ちょっと前に読んだこのエントリにも通じる

hase0831.hatenablog.jp

 

もう10代でもないのだから、いい加減、自分の周りにいてくれる人たちの素敵だなと思う部分をたくさん見つけて、本人に伝えていきたいな思う今日この頃。