村上春樹のスピーチとジョン・アーヴィング「ピギー・スニードを救う話」
今日の2時間後くらいには、ノーベル文学賞の発表があるとのこと。
今年も、ニュースでは村上春樹が受賞するかどうかが度々話題になっている。
報道では厳しいとも言われているが、受賞者がアメリカ大陸出身→ヨーロッパ出身→アジア出身の順で回ってきていて、その法則を当てはめると、今年はアジア出身者から受賞者が出る年にあたるから村上春樹にもチャンスがあると思う。
自分は受賞自体よりも、受賞後のスピーチを楽しみにしている。というのも、彼のエルサレム賞受賞の際のスピーチが、当時高校生の自分にとってかなり大きなインパクトを残したからである。
これを初めて読んだ時から6年くらい経ったけど、ここで言われている「システム」という名の壁の意味が少しづつ掴めている気がする。あくまで気がする程度だけど。
今日、上のスピーチの前半部分にとても類似した文章が書かれた本をたまたま見つけた。それが、ジョン・アーヴィングの「ピギー・スニードを救う話」である。
- 作者: ジョンアーヴィング,John Irving,小川高義
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 文庫
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授業中寝ないようにするために、気軽に読める本はないかと図書館で探していた時に見つけたアーヴィング唯一の短編集なのだが、20ページほどの表題作が素晴らしい。表紙も可愛い。
冒頭の始まりはこうである。
これはメモワールである。だが、どんなメモワールにも嘘がある。なかんずく小説家の記憶などというものは細かな嘘を垂れ流すようにできていて、どうせなら実際の記憶にあるよりも好ましく書いてしまおうと想像力を働かせるのが小説家なのだ。しかるべく書かれた細部が現実と合致していることの方がめずらしい。もう少しで現実になったかもしれないこと、なるべきだったことにこそ、真実は宿るものである。
これは、前述の村上春樹のスピーチの冒頭「作家はなぜ嘘を紡ぐことで評価される職業なのか?」という問いに対する、彼の答えとかなり近いと感じた。
村上春樹は彼の影響を受けたと言われていて、なんなら彼の作品も翻訳しているので、もしかしたらエルサレム賞のスピーチにも無意識的にアーヴィングの影響が反映されているのかもと想像が膨らんだ。
物語はこの後、豚舎で暮らす醜い男ピギー・スニードが登場し、彼に起きたある出来事を通じて、アーヴィングが物語を紡ぐ意味を理解する話になる。アーヴィングを今まで読んだことがない人もここからデビューしてほしいくらい素敵な話だった。
2016.02.03 追記
この作品を見て、またこの小説のことを思い出した。