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Reach For Tomorrow

2017年卒予定の大学生です。日々感じたことを記しておくブログです。

岸本佐知子講演会 「人はどのようにして翻訳家になるのか?」

先日早稲田で行われた岸本佐知子さんの講演会に行ってきた。

以前参加したトークショーが楽しかったので、今回も面白そうだと思って潜り込んだ。その時のトークショーの感想はこちらに書いたのでよかったら。

m-tenenbaum.hatenablog.com

インタビュアーは、翻訳家としては認識していたけど、早稲田で翻訳のゼミを持っていることは今回初めて知った松永美穂さん。

 

〜翻訳家になるまで〜

中学生の時に、絵本の英訳をする宿題で褒められ、それがほぼ唯一の成功体験だった。それが後々翻訳の道に進むきっかけになったとのこと。その後、「文系で英語が得意だったらなんとなく英文科じゃない?」的な周囲の雰囲気に流されて大学へ。

大学では、リチャード・ブローディガン作品の藤本和子訳を読んで、原文より面白いと感じたりしたものの、依然として翻訳家にどうやってなるのかわからないままだったので、就職。ちなみに大学生の時の記憶は3日分くらいしかないくらい暗黒期だったとのこと。

しかし、社会人になっても全然仕事ができないし(「出勤時間を守るという意味がよくわからなかった」・「仕事を辞めた後でも、職場で仕事ができない人がいると『お前、岸本みたいだな』と名前が出てきたらしい」)、人の役に立っていないことでメンタル面が危うくなり、会社以外の居場所が必要であるということから、翻訳教室に行くことを決意。翻訳教室を選んだ理由も、絵画教室と迷ったけど初期投資があまりかからないからというかなりボンヤリしたものだったとのこと。

英文科卒だったこともあって天狗気味で翻訳教室に参加したものの、参加者のレベルの高さと講師の厳しさを痛感して、真剣に勉強を始める。

とはいえ、依然として翻訳家になる方法がよくわからないままだったが、たまたま職場で広告などに関わる仕事に携わっていた縁で、ある作家に「とにかく急ぎで訳してほしい本があって、誰でもいいから翻訳できる人を探しているみたいだけど興味ない?」 と声をかけられ、二つ返事で引き受け、そこから3ヶ月(1ヶ月かも?)で1冊訳したとのこと。今はそのペースで訳せないから、よっぽど真剣にやったのだと思うと振り返っていた。

ようやく初めて翻訳家としてデビューをしたので、その後の翻訳の依頼があるかどうかもよくわかってないまま仕事を辞めてしまったけど、どうにか今に至るという話だった。

 

〜翻訳家としての日々〜 

 ・今でも、小説の英語は半分くらいわからないから、調べながら翻訳する。時には大使館に電話をかけたりすることも。インターネットが出てくるまでは、固有名詞の翻訳に更に手間がかかっていた。特に、松永さんとはニコルソン・ベイカーの翻訳の難しさについて語り合ってた。 

中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

 

 ・翻訳する作品の選び方に関しては、amazonで本の表紙を見て、気になった作品を片っ端から買って積んでおいて、その中から更に気になった作品を訳すというスタイルをとっている。その結果、訳したいなと思っていた作品が他の方に訳されることもあるとのこと。

 

・ちゃんとした作家の翻訳は、他の方が訳すと思って、自分が好きな変わった作品や作家を訳していたうちに、変な人を翻訳する人のイメージがついて、「この本、翻訳して見ませんか?」との依頼がくるようになった。

 

・エッセイを書くのが実は嫌い。小説を書いてみようと思ったこともあるけど、全く書けなかった。本当のことしか書けない。

 

〜感想〜

質疑応答の時間になったところから、「たべるのがおそい」(アメトークでも紹介されてた)の西崎憲さんも加わってより贅沢な時間になり、翻訳している最中に作品の世界に入り込めない作品は、どうしたって名作になりえないという話はプロ意識が伝わってきた。 

文学ムック たべるのがおそい vol.1

文学ムック たべるのがおそい vol.1

  • 作者: 穂村弘,今村夏子,ケリールース,円城塔,大森静佳,木下龍也,日下三蔵,佐藤弓生,瀧井朝世,米光一成,藤野可織,イシンジョ,西崎憲,堂園昌彦,服部真里子,平岡直子,岸本佐知子,和田景子
  • 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あと、質問した学生の多くが岸本さんのエッセイから翻訳に興味を持ち出したという話をしていて、かつて岸本さんが藤本さんのブローディガンの翻訳から翻訳の世界に足を踏み入れたように、岸本さんも多くの人を翻訳の世界に引き込んでいるという事実を目の当たりにして素敵な気分になった。

挫折していた「エドウィン・マルハウス」をもう一度読んでみようと思いました。 

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

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