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日々の一部始終

スティーヴン・ウィット「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」

2ヶ月ほど待って、昨日ようやく図書館で借りられたこの本がべらぼうに面白く、興奮冷めやらぬままこのブログを書いている。

誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち【無料拡大お試し版】 (早川書房)

誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち【無料拡大お試し版】 (早川書房)

 

簡単にあらすじを説明すると、出自のバラバラな3人が主人公で、1人目はmp3という技術(身近すぎて誰かが作った技術だという概念なさすぎた!単位のような感じで接していた!)を作り出したドイツ人の技術者ブランデンブルグ、2人目は傍から見れば成功者ではあるが実は大した功績を残していないと感じていたレコード会社のCEOダグ・モリス、3人目は田舎のCD製造工場で働く勤勉だけど、遊ぶためのお金が欲しい青年グローバー。

 

彼らがいかにしてそれまでの音楽業界のビジネスモデルを変えてしまったかが克明に描かれているんだけど、根っこにあるのは既存の権威や政治力に対する反発みたいなものだったりして、そういう個人の身も蓋もない思いが、テクノロジーの力を使って、想像を絶するほどのインパクトを与えた点で大好きな「ソーシャル・ネットワーク」を思い出したり!

50セントはバカでかいダイヤのピアスをしていたし、ビタミンウォーターにも投資していた。カニエはスーパーモデルと付き合い、30万ドルもするらしい金のファラオのようなネックレスをこれ見よがしにつけていた。ダグ・モリスは2ヶ月前にセントラルパークが一望できるコンドミニアムを1000万ドルで買っていた。それにひきかえ、グローバーは工場で年間3000時間も働き、養育費を払いながらゴム手袋とベルトのバックルを使って音楽業界のみんなを打ち負かしていた。

 

「ソーシャル・ネットワーク 」の他に思い出した映画には、「ストレイト・アウタ・コンプトン」があった。N.W.A解散以降、ドクター・ドレを始めとする人々が政府関係者の圧力に負けずにヒップホップシーンを盛り上げていった背景には、今作の主人公でもあるダグ・モリスのような音楽業界のビジネスマンの思惑や野心が反映されていたことなどが書かれている。そして、彼らによってヒップホップが人気のジャンルとして定着した結果、シングル重視(アルバム軽視)の風潮が生まれ、最終的にはCDという媒体の衰退に結びついた、なんていう皮肉な結末にもつながる。ヒップホップという音楽が、文化だけでなく、ビジネスモデルにまで多大な影響を与えたストーリーとして読んでも面白い。それこそN.W.Wからchance the rapperまで一つの文脈として捉えられる感じ

 

この本はtofubeatsがインスタに写真をあげてたことがきっかけで興味を持ったのだけど、この本で描かれている時代(1995年頃から2010年頃まで)と、自分が熱心に音楽を聴き始めた時代(2006年頃)がギリギリで重なっていたので、たくさんの知らない情報に驚きつつ、また同時に、リスナーとしての当事者的な立ち位置からも読めたので楽しかった。

途中で、発売前のアルバムをどのグループがいち早くインターネットにリークするかを競争する場面があるんだけど、どのアーティストのアルバムをリークすると手柄として評価されるか、などが描かれていて、そこに出てくるアーティストのチョイスに当時ティーンだった自分はいちいち「わかる!」ってなる。Fall Out Boyの2ndは懐かしすぎる...

本の中で出てくる曲を、すぐにApple Musicで調べて聴きながら読み進めていたけど、これって今だからできることでちょっと前だったらできなかったんだな...とか、TSUTAYAで洋楽のCDは1年くらい待たないと借りられなかったのとかなんだったんだろう...とかリスナー体験を振り返りながら読めるので2000年代に海外の音楽に夢中になった人には特に勧めたいです。