塩田明彦「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」からカサヴェテスの話
暇だけど、お金は相変わらずないし、バイトをするモチベーションは皆無なのでひたすら大学の図書館で気になる本を読む日々なんですが、久しぶりに読んだこの本の内容が初めて読んだ時(おそらく約3年前)よりも理解できて興奮した。
今回再読した際に、一番気になった部分はカサヴェテスについて言及するところだった。
カサヴェテスに関しては、今まで作品を全く見てこなかった。名前は知っていたが、敷居の高さを感じていた。
しかし、そんな私もカサヴェテスに興味を持ち始めるきっかけがあった。
それは去年「ハッピーアワー」を見ていたく心を動かされたことだった。
あの作品は、当初「BRIDES」という仮タイトルがつけられていて、それはカサヴェテスの「ハズバンズ」という作品にちなんだものだったという。それならもしかしたら私にもカサヴェテス作品を楽しめる可能性があるのかもしれないなと思っていたところで今回の本での言及だった。
具体的にカサヴェテス作品の特徴を著者はこう語っている。
カサヴェテスの映画は、人物そのものがドラマ-被写体としての人間そのものをドラマとして捉えています。
つまり人間の内面に強烈にフォーカスしているんですけど、それでもカサヴェテスの映画が、世に山ほどある、いわゆる「人間の内面を描いた映画」に比べて圧倒的に面白いのは、登場人物が行動することを忘れないからなんですね。あくまで、「行動」を通して「感情」を捕まえようとしている。
それまでのアメリカ映画の登場人物の作り方というのが、「この人はこういう人なんだ」しか言いようがない、その「性格」が、人物の「行動」のバネになっていたのにたいして、カサヴェテスは、「性格」の部分を「感情」に置き換えたわけです。今こういう「感情」だから、この人はこういう風に「動く」と。
(普通の映画監督は、ひとつひとつのシーンが明快に何について語っているのかを描いているという話から)
ところがカサヴェテスはそうしない。なぜなら感情が揺れ動くから。だから一つ一つのシーンがどんどん長くなってしまって、構成はあるんだけども、構成よりも一つ一つの心の持続によって観客の興味を引っ張っていく。作劇によるサスペンスではなくて、シーンが持続していく中での臨場感というか、登場人物たちの感情や行動が一瞬後にはどこへ向かっていくかわからないっていう、そういうハラハラドキドキによってサスペンスを生み出していく。そんなふうに映画を作ることが可能なんだということは、これはやっぱりものすごく革新的な驚くべき発見だったわけです。
ここで書かれているカサヴェテスの話は、「ハッピーアワー」にもかなり影響を与えていることが下記の濱口監督のインタビューからも伺われる。ここでは「感情」を「エモーション」と言い換えられているけど。
『ハッピーアワー』濱口竜介インタビュー 「エモーションを記録する」| nobodymag
僕は『ハズバンズ』というものに、もしくはすべてのカサヴェテス作品に「エモーション」を感じるわけです。そして、実のところそれを見なければきっと映画を作るという選択肢自体そもそもなかったような気がします。このエモーションというものを追求しない限り、僕には映画を作る意味というのはないんです。そうきちんと思えるようになったのは最近のことですけど。なので、答えになるかはわからないんですけれど、エモーションというのは当然見えないんだけれど、見えるもの、聞こえるものを通じて感知されるものだと思うんです。その点では、風みたいなものですね。
このエモーションをどう記録するかということに関しての工夫の軌跡はこの本に記されている。
カサヴェテス作品への敷居が下がったので、近いうちに借りてみようと思った、という話。